どんなに小さい嘘でも、なにか大事なものを守る善意の嘘でも、嘘をつくときには、人の心はチクリと痛むものだ。これほど平気で堂々とつける楽しい大嘘は、ほかにない。「サンタクロースは本当にいる」。世界中の大人たちが、喜び勇んで子供をだますのが今夜だ。
▼米国のかつての大新聞ニューヨーク・サン紙は、社説で「愛や寛容、献身が存在するのと同様に彼も存在する」と格調高く論じた。8歳の少女の投書に答える形で「本当の真実とは子供にも大人にも、目で見ることはできない」と書いている。質問を出した少女はやがて学校の先生になり、47年間子供たちを教えたそうだ。
▼ほしい物を手紙に書かせたり、夜空に叫ばせたり。家庭によって流儀はさまざまだろう。サンタは日本語を読めるのか、どこで買い物したのかと疑心暗鬼は膨らむが、幼い妹や弟のために、ひそかに演技を続ける子もいる。プレゼント欲しさで信じているふりをする子もいる。いつの間にか、大人が子供にだまされている。
▼世の中には、子供だけが知っている真実がある。愛しているつもり。優しいつもり。一生懸命のつもり。でも大人は、ちっぽけな自分の欲のために、もっと大事な何かを忘れることがある。子供たちは大人よりずっと幸せに敏感だ。小さな子供は日経新聞を読まないとは思うけれど、もしこれで嘘がばれたらごめんなさい。
(2012.12.24付 日経新聞コラム 春秋 より)
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